プーアール茶.com

暑い日の苦いプーアル茶

暑い日に熱いお茶。しかも苦い生茶がいい。
沸きたてのお湯で香りが立つようにさっと煎じると、渋みや苦味とのバランスがよく、口に爽やかになる。また、後味に、喉の乾くような感覚がある。渋みや苦味の成分が喉を刺激するのだ。水分を補給しながらも、喉の渇きを感じるという、矛盾したようなことを繰り返すうちに、気持ちは解放されて、肩の力が抜けてゆく。もちろん、熱いのを飲むと体は温まって、汗も出てくるが、それが気持ち悪いとも思えないのだ。
本日のお茶は「黄印7542七子餅茶」
お試しあれ。
黄印7542七子餅茶
黄印7542七子餅茶
話は変わるが、最近、どうも自分のモノの見方が間違っている。それは、起っている「物事」をどう解釈するかという、モノの見方であるが、どこでどう間違うのかが、自分でも分からない。
そこで、ちょっと気分を変えて、スケッチをしてみた。学生のときに絵を習っていたので、いまいちど眼で見るほうの「モノ」の見方についてはどうなのだろ?と思ったのだ。
そしたら、やっぱり同じことが起った。眼で見ているのと、心が勝手に解釈して見ているのと、そのズレが、スケッチにゆがみとなって表れる。もういちど対象物をよーく見て、修正してゆくうちに、自分の心がどのように勝手なモノの見方をするのかが予測できるようになって、線はピタッと決まってくる。心のほうは相変わらず間違った見方をしようとするが、技術によって修正できるのだ。たぶん「物事」の解釈についても同じはずだ。事実をよーく見て、ズレを予測して、心のゆがみを修正してやるぞ。

生茶の泡茶技術 その4

それなら、熱い湯で多めの茶葉をさっと煎じる方法とは逆の煎じ方ではどうなるのか?その極端な例を試してみたくなった。水で茶葉をさっと洗って、蓋碗に適量を入れ、水を張り、蒸し器で蒸す。冷えた水から火にかけて煮出すのは、燉湯の手法で、ゆっくり温度を上げていって沸騰させないことで、見た目も味も透明な鶏の出汁をとる。そのように茶葉の出汁をとる。
茶葉はこれまでにも試したこの3種。
大益8582七子餅茶06年
千禧年7542青餅00年
同興號後期圓茶70年代
蒸して煎じるプーアル茶
蓋碗ごと蒸し器に入れて強火にかけて10分。蒸しあがった蓋碗の茶湯を茶海に移す。この瞬間にいっきに茶の香りが放たれる。しかしいつもの香りにくらべるとかなり熟れた感じ。同興號後期圓茶70年代は、腐ったように思えないこともない。そこに湯を注いで、適度に薄める。
蒸して煎じるプーアル茶
蒸して煎じるプーアル茶
飲んだ瞬間から一呼吸置いて、あー!っと声が出た。どれも美味い!甘い!ゆるりとしたとろみが舌を包み込んで溶ける。エロい!同興號後期圓茶70年代は、あの小豆のような香りと甘味で、もはやお汁粉である。他の二つも若いながらに強い甘味ととろみがあり、後から出てきて舌に残る渋みと苦味があるもののバランスは崩れない。茶湯は口から喉へとゆるりと通り過ぎ、イガイガしない。スースーするようなメントールの感覚が後に残って、上に向かうので、だらけない。沈まない。
蒸して煎じるプーアル茶
高温の湯でさっと淹れたときのような、立ち上る香り、味の弾みや響きはないが、南国の沖縄やタイの民謡の歌声のような揺らぎがある。やわらかい茶湯がお腹に収まってからもその揺らぎは消えず、身体じゅうにゆきわたりながら揺らぎ続ける。そのうち脳も揺らいでくる。これは雲南省西双版納の茶葉で、メコン川の上流域の葉っぱモノなのだ。
この独特の酔いが醒めて、冷静になってふりかえってみても、茶葉を蒸らす時間をとったほうが、甘味と揺らぎの成分はよく抽出されるらしい。茶葉がほんとうに良くて、熟成具合も良いものならば、この感覚を楽める。
いつも何気なく蓋碗でお茶を煎じているのだけれど、その内側では、香りや味のバランスの振り子が揺れている。おもったような味に煎じるのには、おもったような位置でピタリと振り子を止めてやる必要がある。
まだ泡茶技術の探求はつづく。と思う。

生茶の泡茶技術 その3

昨日の生茶の泡茶技術の続き。
本日は生茶の老茶で試してみる。同じように熱い湯で多めの茶葉をさっと煎じる。選んだ老茶は「同興號後期圓茶70年代」。易武山の立派な茶葉でつくられた1970年代のもので、熟成がすすんでいて50年モノにも通じる風格がある。餅面(餅茶の表面の茶葉)が美しい。
同興號後期圓茶70年代
同興號後期圓茶70年代
同興號後期圓茶70年代
鉄餅でフツフツの湯を注いで、8gは蓋をしてすぐに茶海に注ぐ。3gは少し蒸らして同じような色になるのを待つ。
茶湯の色は同じようでも、味は違う。8gは香りが上へ昇り、3gは香りが横へ寝る。8gは辛く、3gは甘い。8gはカラッとして、3gはトロッとする。8gは高音が響いて、3gは低音が揺れる感じ。8gは北の風味で、3gは南の風味。
同興號後期圓茶70年代
ここで念を押しておくと、この8gのほうの煎じ方で重要なのは、熱い湯を使うことと、茶葉を蒸らさないことであって、茶葉の量は8gでなくても良い。もしも蓋碗を小さいものにすれば、3gでも同じように淹れられる。
ここでひとつアイデアが浮かんだ。茶葉を蒸らさないほうが良いのだったら、蓋碗すら使わないほうが良いかもしれない。茶漉しに茶葉を入れて茶海に乗せて、直接熱い湯を注いでみる。洗茶をした茶湯は捨てて、次の一煎めから飲む。
千禧年7542青餅00年
千禧年7542青餅00年
これに選んだお茶は「千禧年7542青餅00年」
熟成半ばの青餅(生茶の餅茶)で、まだ青い味が強い。そしてやはり予想したとおりのドライな風味になった。
はじめてのときは慣れないので湯を注ぐスピードが速すぎて、ちょっと薄くなった。そこで茶杯に注ぐときにもういちど茶漉しに通してみた。即興のアイデアだったが、これもうまくいった。
千禧年7542青餅00年
左: 同興號後期圓茶70年代
右: 千禧年7542青餅00年
「同興號後期圓茶70年代」も茶漉しで煎じるのを試した。結果、蓋碗でさっと煎じるのと似た風味になった。
味は好みであるが、まだ10年も経っていない倉庫熟成の弱い新しい生茶ならドライなほうが美味しく、同興號後期圓茶70年代みたいな老茶の場合は、自分はウエットなほうが好きである。雑味の旨さというのがある。
それにしても、熱い湯で多めの茶葉をさっと煎じるやり方は難しい。熱い湯を沸かせる鉄瓶みたいなのが要るのと、慣れるまでに火傷を経験するのと、瞬間に味を決められるセンスが要る。多くの人にとって現実的でない。
なんだか、面白くない。
まだつづくかもしれない

生茶の泡茶技術 その2

このブログの読者のみなさまは、当店のプーアール茶を買って飲んでください。お金を振り込むだけで、異国の知る人ぞ知る年代モノの本物の茶葉が、飛行機に乗って飛んでくる奇跡が享受できるのです。
さて、昨日紹介した新しい泡茶技術の続き。一日中茶室に閉じこもって集中する。8gと3gを比べる。使用した茶葉は、当店で販売中のでは一番新しい生茶の「大益8582七子餅茶06年」
大益8582七子餅茶06年
大益8582七子餅茶06年8gと3g
鉄瓶
湯は、鉄瓶でカンカンに沸かしたやつで、フツフツしながら口から飛び出てくる。当店の蓋碗の形状は、口が広く、持つところが熱くならないほうであるが、今回はさすがに熱い。気合で我慢してすばやく茶海に注がなければ、8gのは濃くなりすぎる。それに対して3gのほうはゆっくり蒸らして、ちょうど茶湯の色が同じくらいになる。
大益8582七子餅茶06年
大益8582七子餅茶06年
左: 8g  右: 3g
見た目は同じだが味はちがう。8gは上へ昇り、3gは下へ沈む。8gは始めに苦く、3gは後から苦い。8gは喉にきて、3gは舌にくる。8gは熱く、3gはぬるい。細かなところを挙げるとキリがないが、簡単に言うと「陽」の8gと「陰」の3gである。それほどに違いがある。
大益8582七子餅茶06年8gと3g
延々と飲み比べ。夜になっても終わらない。なんらかの結論を出したいという気持ちが働いて、前に進まない。
大益8582七子餅茶06年
しばらくは茶室に布団を敷いて寝泊りする。思いついたらすぐに泡茶できるし、夢の中で続きを見るかもしれない。
まだつづく

生茶の泡茶技術 その1

このブログの読者のみなさまは、当店のプーアール茶を買って飲んでください。なぜなら、お茶は見るものではなくて飲むものだからです。
さて、今日はそのプーアール茶の話。
20年も30年も長年熟成したまろやかな青餅(生茶の餅茶)を美味しく飲むことについては、当店のサイトでもいろいろ紹介しているが、メーカーから出荷されて10年も経たないもので、しかも茶商の倉庫に入っていない常温乾倉の生茶で、さらに偽物ではない本物の易武山などの古い茶山の、本物の古樹茶ならではの、力のある茶葉からできた青餅を美味しく飲むことについては、これまでとくに紹介していなかった。
易武山
だから陳兄貴が本日見せてくれた技術には、はっとさせられるものがあった。兄貴と呼べる気安い関係ではないが、そういう雰囲気を持つ人なのでそう呼ぶことにする。知り合いの店でバッタリ会って、挨拶もしないうちから「まあひとつ食え!」と台湾から持ってきたドライミニトマトをすすめられた瞬間に、人の上下関係は落ち着くところに落ち着いて、お茶の話に集中できた。日本では知られてないが、台湾の五行圖書出版有限公司の『深邃的七子世界』の著者であり、プーアール茶の専門誌の『茶藝』編集長の陳智同氏である。
陳兄貴
陳兄貴が持参していた「易武山」とだけ包み紙に書かれた青餅(生茶の餅茶)は、おそらく易武山の号級を再現する「真淳雅號」のメーカーか、その系統のものではないかと思う。餅面(餅茶の表面の茶葉)の写真を撮り忘れたが、それほど特別なものではなかった。2007年くらいの茶葉だった。
当店で紹介している老茶とはちがって、茶葉の量が多い。蓋碗の大きさから、老茶なら3gで済ませるところを8gくらい使う。ただでさえ渋い苦いのにこんなに多く・・・・と思うまもなくポンポンに沸いた湯を注いでさっと洗茶を済ませ、蓋碗を手にして香りをみる。すると、香ばしく甘い。かすかに柑橘系のあの香りもある。湯の温度が関係している。
易武山
茶葉が多いので、湯を注いでから蓋碗の蓋をして茶海に注ぎきるまで息をつく暇はない。一瞬である。それでもやっぱり濃い色になって、苦い渋い酸っぱい。けれど味に弾みがついて重くない。サッパリしているが強い味を口に留めておけず、すぐに飲み干す。喉が苦味や渋味に麻痺したようになって、渇きを覚え、もう一杯欲しくなる。そこから先が、この味の世界の入り口である。香ばしく甘い香りに誘われて、口が受け入れ体勢に入ったところで、予想外な強い刺激がくる。その刺激がたまらなく、もう一杯、もう一杯となる魔術。そうしているうちに体にぐっと来る。背中に汗が出る。岩茶の強さにも通じるが、易武山のこの茶葉はもっと強い。
こうした新しいプーアール茶の楽しみ方を伝えてゆくのは、古い味が少なくなってきて、それで商売できる者も少なくなったためだけれど、新しい生茶の味は、緑茶や烏龍茶の味の世界と重なるところがある。一日に飲めるお茶の量は限られているから、どちらかを選んだら、どちらかは要らない。ポジション争いに勝てるかどうかは、茶葉の素質もあるけれど、プーアール茶で商売をしている者たちの取り組みにも大きく左右されそうである。
「千禧年7542青餅00年」
「紫大益7542青餅00年」
「7542七子餅茶99年無内飛」
「百茶堂二代鉄餅05年」(未発売)
とりあえず、このあたりの茶葉で、明日から試してみよと思う。ちなみに、「真淳雅號」は第一作目のをすでに確保してある。

見えない水の流れ

地上の水と同じように、空気中の水も、どこかへ流れようとしているらしい。地上の水は低いほうへ流れるが、空気中の水は冷たいほうへ流れて、そこに溜まろうとする。
上海の霧
窓の露
濃い霧の日の上海と、寒い日の窓ガラスの水滴。
プーアール茶の熟成のための自家製倉庫は、冬の間は加温と加湿をするために、倉庫の外と中の温度差が大きくなる。この温度差が空気中の水を移動させる。
大きな失敗をしてたくさんの茶葉をダメにしないように、何枚かを犠牲にして、意図的に小さな失敗を試みている。小さな箱を倉庫にみたてて、温度と湿度を上げて、そこに茶葉を置く。箱の中の温度計は、夏の日の常温とほぼ同じ値で、それほど特別な環境ではないし、実際に夏の日の常温の部屋にあるプーアール茶にカビが生えるようなことはない。
プーアール茶のカビ
プーアール茶のカビ
それなのに、箱の中の餅茶に異変が起きた。茶葉に触った瞬間にその原因がわかった。茶葉が冷たく湿っている。箱の側面のいちばん冷たい部分に茶葉が接していたのだ。その部分だけの温度が下がり、窓ガラスの水滴のように結露したようになって、茶葉に水が浸透し、カビが生えた。
箱の側面にはもちろん断熱の工夫はしてあるが、それでも加温すると温度差が生じる。室温計では空気の温度は測れても、壁の温度までは測れないので、壁の部分的な温度が低いということまではわからないのだ。そこで、非接触温度計が活躍する。
大益8582七子餅茶06年
日本に一時帰国したときに堀場製作所のオンラインストアで入手して、電池を入れてすぐ、部屋の壁のいたるところに標準をあわせ、ボタンを押してみた。室内温度計は18度を指していた。しかし、非接触温度計で測った部屋の壁は、10度〜23度と、場所によって12度もの差があった。ちなみにその日の外気温は2度であった。
プロの茶商の倉庫では、この「見えない水の流れ」対策のために、扇風機を用いているところがある。扇風機を壁に向けてまわし、倉庫中にゆるやかな空気の流れをつくって攪拌することで、温度差を少なくする。個人が家庭でプーアール茶を長期保存するときには、室内の比較的乾燥した場所に保存するため、このような問題が生じる心配はまずない。部屋の中の冷たく湿っぽい場所に置かないように気をつけるくらいでよい。
この非接触温度計は、倉庫の温度管理以外にも、熟成中の茶葉や、火入れしたときの茶葉の温度を測ったり、茶湯の水面の温度を測ることもできる。また、測定温度範囲は、−50℃〜500℃である。料理にも使える。例えば、炒飯を炒めるのにベストな温度が見つかるかもしれない。

73青餅への道

プーアル茶は高いほど美味しいのか?という質問をしてくれる人はひとりもいないのだけれど、もしそういう質問があったら、明確な答えを用意している。高級品には、その品にあるべき味や香りがちゃんと決まっていて、それをどれだけ満たしているかで評価が決まる。だから、高いほど美味しいというよりは、高いほど正確に美味しいというのが近い。
当店が餅茶の状態の「早期紅印圓茶」や「後期紅印圓茶」を扱っていないのは、高額すぎるからというよりは、その鑑定が正確に出来るほどの経験が無いからといったほうがいい。毎日のようにいろいろな「紅印圓茶」を飲み比べないことには、値決めできるほどの鑑定は難しい。そうこうしている間に、紅印一枚は高級車よりも高額になるだろうけれど、それは仕方なし。それよりも手の届く範囲の、1970年代からの品に狙いを定めているのは、古いプーアル茶ファンの方にはお見通しのことと思う。自分にとっては、1970年代のが手の届きやすいところなのだ。
さて、ここまでの話を前置きにして、この先の話になる。
いま取り組んでいる自家製倉庫熟成の目指すところは、「73青餅」である。もちろん状態の良い本物の「73青餅」。
このお茶、実は1984年モノであるが、1970年代モノでも通用するほど貫禄十分。種類の多い「7542七子餅茶」シリーズの中での美味しさは格別。高級茶としてふさわしい味と香りが備わっている。
73青餅
73青餅
1970年代の「7542」の前身「七子小緑印」をはじめとして、多くの「7542」を飲む機会があったけれど、「73青餅」と他の「7542」との違いは、熟成の仕上がり具合にある。葉底(煎じた後の茶葉)にはとくにそれが現れている。偶然ではないと思えるところがある。それは、同じ茶商の手がけた「雪印青餅」もまた、「7532」の中では、飛びぬけているからだ。(いちいち断るが、状態の良い本物の「雪印青餅」である)。
「73青餅」も「雪印青餅」も、香港が中国に返還された1997年頃に、台湾に移されており、保存環境は変わっている。そこもまた重要な気がする。はじめからずっと香港にあっても、はじめからずっと台湾にあっても、今のようには仕上がらなかったかもしれない。
自家製倉庫熟成を始めて、ようやく2006年の新しいお茶の味がぐっと変わってきて、つい嬉しくなって、もしや20年モノの味を5年で作れるのではないかと先走った考えをしてみたが、その後の観察で、どうやらそうではないとわかってきた。10年モノは10年モノ。30年モノは30年モノの味なのだ。まだその味の変化の仕組みをうまく説明できないが、ある変化がおきないことには、次の変化はありえない。次の変化がなければ、その次の変化もない。「73青餅」が、香港の熟成でなんらかの変化を得ないことには、台湾での変化もありえない。味の変化の道はまっすぐではない。どこかで方向を変えたときに、いままで来た道の意味が出てくるパターンもある。そうした変化のリレーバトンの受け渡しが、10年、20年、30年と続くのであれば、近道などありえないわけだ。
2002年頃からの中国大陸でのプーアル茶ブームで、需要が急拡大して、茶葉の生産も急増し、全体的に茶葉の質が変わってきた。1970年代〜1980年代後半くらいの茶葉と、現在の茶葉との様子が少し違う。同じ銘柄で年代の違う葉底(煎じた後の茶葉)を見比べると分かりやすい。「正確に美味しい」ところを目指すには、茶葉の選択から見直すべきかどうか、いま探っているところだ。もしかしたら、孟海茶廠の「7542」ではないけれど、「73青餅」に迫るお茶が、当店の倉庫から出てくるかもしれない。25年後くらい。

「火入れ」 60度 5分

『日本の酒』 発酵学者・坂口謹一郎著
この本から、というか日本酒の製造技術からもうひとつ、プーアル茶の熟成にも使えそうな技術がある。
「火入れ」60度、5分。
酒が腐りにくくなるように低温殺菌し、成分の変化も最小限に抑える技術である。しかも温度が上がる初期には酵素がよくはたらいて酒質の熟成をたすけるらしい。酒は水分があるから、腐ると酢になってしまう。茶葉は乾いていれば腐る心配はまずない。しかし、倉庫熟成の茶葉は別だ。自家製倉庫の試みでわかってきたことだが、茶葉は思ったよりも水分を持つ。倉庫の中ではいろいろ作用していて、その水分量でも腐るなんてことはまずない(熟成の上手な倉庫では)。香港のただでさえ湿気のある倉庫から出たものは、自然乾燥させてから出荷される。これなら問題が無い。ところが、倉庫を出てすぐのまだ乾かないうちに、航空便で冬の上海や日本に移動したらどうだろう。本日1月18日の香港の気温20度、上海の気温3度、その差17度を、2時間半で飛んでくる。茶葉は水分を持ったまま急に温度の低いところに移る。倉庫で保たれていたバランスは崩れ、不良発酵するかもしれない。
そこで、火入れだ。
まだ茶葉の水分のあるうちに、熱を入れる。60度で5分。低温殺菌して、乾燥もして、成分の変化が最小限となれば、その後に茶葉が思わぬ変化を起こすことにはなりにくいだろう。そもそも、メーカーで圧延加工されるときに、茶葉は高温で蒸されて固められ、乾燥させられる。そのときに比べると、低温殺菌はそれほど強い影響を与えないはずだ。だとしたら、その後の保存熟成にも影響はそれほどないはずだ。
そして、早速それを試してみた。
大益8582七子餅茶06年
大益8582七子餅茶06年
「大益8582七子餅茶06年」(未発売)の倉庫熟成中のもの。餅茶の内側の茶葉の様子を見るために、すでに何枚かを崩しているのを、少し分けて低温殺菌して3日間置いてから飲み比べした。
大益8582七子餅茶06年
大益8582七子餅茶06年
大益8582七子餅茶06年
左: 火入れなし
右: 火入れあり
飲み比べて、その差があるような気もするし、ないような気もする。このように同時に飲み比べて、差がほとんどないのなら、本当に差が無いということになる。殺菌や成分変化の面で成功しているかどうかは別の機会に証明するとして、味は変わっていないので成功していると言ってもいいだろう。まだもう少し時間を空けたものを比べる必要がある。それはおいおいやってゆくとして、この火入れをして気付いたのだが、倉庫熟成中の茶葉をお客様に販売できる。今までは、湿った茶葉が郵送中におかしくなってはいけないと思っていたので、退倉して自然乾燥して2〜3ヶ月後にやっと販売という形しか考えていなかった。しかし、火入れで低温殺菌して乾燥させた状態であれば、郵送の問題もなしだ。熟成半ばのお茶ってどんな味なんだろ?と、興味を持っていただいているに違いない日本全国の2人か3人のお客様に、ご提供する方法ができたわけだ。
大益8582七子餅茶06年半熟火入れ90g3,000円。
プーアール茶.comの申し込みフォームにて受付開始。販売は2週間くらいで、いったん終了の予定。
ちなみに、この「大益8582七子餅茶06年」は、甘味が強く出すぎるくらい出て、ややバランスを崩していると見えるが、この段階ではこれでいいのだと思う。熟成による味の変化の道はまっすぐではない。この話については長くなるので、またの機会にする。
追記:
火入れは、この熟成半ばの茶葉を売るためだけに使う技術であり、自家製倉庫のお茶は、基本的には火入れをしない自然乾燥の「本生」である。

茶葉の水分量の分岐点

茶葉の湿り具合を変えたものをいくつか用意し、それぞれ瓶に詰めて、温度を一定に保ち、その変化を見てわかったことは、茶葉が含む水分量があるところを越したとたんに、突然菌類が活発になるような感じになる。菌類は、老茶の茶葉といっしょにしたものが増殖するのだろう。もちろん空気中にもいるだろう。数日でいっきに茶葉の色が黒く変色する。この変化の様子は、メーカーでの「渥堆」による熟成のものに似ていて、茶商の倉庫の保存熟成による緩慢な変化とはちょっと様子が違うような気がする。香りがイカレてしまった茶葉をパスして、香りのいい茶葉を試しに飲んでみると、美味しい。渋味が信じられないほど消えていて甘味が強い。香りは弱くなっている。しかも、後味に口にスースーするあのメントールの感じがある。これは老散茶や熟茶の「7592七子餅茶プーアル茶」「天字沱茶90年代初期」にもある。
もう一方で、茶葉は湿ってはいるが、菌類が活動していなさそうなのがあって、それは茶葉の色は数日では変わらないように見える。いま当店の自家製倉庫の茶葉たちもそれに近い状態である。数日では変化がわからないが、1ヶ月ほどしたら常温の乾燥状態のものと比べて違いがでてくる。煎じると、茶湯の色は濃くなり、味はまろやかで、旨味や甘味も少し増したようになる。この少し変化に、菌類が関与していないとしたら、紅茶などと同じような、酸化発酵の、ものすごく緩慢な変化が起こっているのではないかと思われる。茶葉が乾燥している状態ではそれが起こらないが、茶葉が湿った状態になることで、それが起こるのかもしれない。実際に、緑茶の味だった生茶が、紅茶に近いような味になってくる。
あるいは、茶葉の水分量が異なると、菌類の中で活発に働くグループが違うのか、それとも働き方が違うのかもしれない。そうすると、いろいろなことにつじつまが合ってくる。茶葉の水分量に左右される緩慢な成分変化があって美味しくなるとしたら、成分変化のきっかけをつくる成分が必要になるが、それは茶葉がもともと持っていた成分ではなくて、菌類が活動した結果、新たに作られた成分という可能性がある。
もしも、菌類の活動のあるなしや、活動する菌類をはっきりと分けられるのなら、その分岐点となる茶葉の水分量や温度をはっきりさせれば、保存熟成をする茶商は、味を調整することができる。家庭での保存には、乾燥状態が良いという常識をくつがえして、例えば7月と8月は、茶葉の重量が4%増すまで加湿してから、容器の中でその状態を保ち、飲む10日前になってから乾燥したところで乾かして、味の変化を止める。というのがよいことになる。
しかし、そんなことは一部の茶商はすでに独自にやっているのだろう。
早く顕微鏡が欲しい。
つづく・・・

プーアール茶に種麹を

生茶で熟成されたプーアール茶が、多くの人に広まらないのは、他の発酵食品に比べて、熟成の成功率(というのかな?)が低くて、本当に美味しいのに出会う機会が少ないのが原因だと思う。それで、最近読んだ本の、『日本の酒』 発酵学者・坂口謹一郎著 (この本はすごい!)で、「あーっこれだー!」と思ったことがある。
「種麹」。
プーアール茶もメーカーでの熟茶作りには種麹らしきのが使われているが、保存熟成ではこれがない。あると聞いたことがない。保存熟成にはそもそも菌類が働いていない可能性もあるが、菌類が働いた跡のようなのが残っている茶葉もたくさんあって、そういうものの中にこそ抜群に美味しいのがある。菌類の仕業で美味しくなるのだとしたら、茶商の倉庫の空気中にただよっている菌類にまかされているのでは不安定だし、時間もかかる。
保存環境によっては、極端な場合は1年で美味しさがちがっている。同じ銘柄、同じ年の品なのに、実は味がぜんぜん違うのだけれど、しかし、その差を一般の人が知るのは難しい。プロでも難しい。
そこで、種麹の出番である。種麹は、粉末なのか、茶葉に大量にくっついた状態なのか、よくわからないが、とにかくそれを、温度と湿度を一定に出来る入れ物に、プーアール茶といっしょに入れておけば、あるいは夏の間だけそれをすれば、グッと旨味と甘味が増しているということになりはしないか。そうすると、美味しい生茶のプーアール茶の割合が増えることになる。保存熟成の時間が短縮されるということは、コストが下がるから価格も下がる。ファンは増える。
種麹は、メーカーの熟茶作りに使われている種麹ではいけない。環境もぜんぜん違うし、熟茶と生茶の風味は違うべきだから、同じ菌類の活動ではだめなのだ。
それがありかなしか、仮説を立てたからには検証せねばなるまい。

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