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カントーの屋台の豚汁粥

ベトナムは、なにかとまっすぐ行けない。
悪いタクシーはメーターを改造していたり、遠回りしたり、つり銭を払おうとしないので、そのたびにもめる。ホテルは、ガイドブックに日本人経営と書いてあった安いところに予約しておいたら、部屋は無く、屋根裏部屋に案内され、ソファーには知らないおじさんが寝ていた。そのホテルをキャンセルして、すぐに別のホテルを手配したが、宿泊費よりも高いキャンセル料を要求され、またもめる。ホーチミンからニャチャンへは、最新の鉄道のファイブスターエクスプレスをWEBサイトから予約して、予約番号をもってチケットを取りに行くと、「電話で予約をしないと席はありません」と言われた。「WEBサイトの予約はなに?予約番号はなに?」と言ってはみたが、無いものは無い。飛行機の3倍の代金を払って唯一空いていた個室のチケットを買った。帰りはニャチャンの町が停電して、飛行機も鉄道も予約できない。デンマークの家族がチャーターした車に乗せてくれたので、9時間かかってホーチミンに戻れた。
面倒なことが多いけれど、田舎の人は親切だった。旅人はお互い助け合って、交流できた。子供の頃にサイゴンに住んでいたアメリカの植物園の園長と魚類学者の夫婦。青い眼の美人姉妹のいるデンマークの土木設計技師の家族。子供だくさんの南フランスの12人家族。まじめがとりえな韓国人の銀行員。お金を使わないスイス人のバックパッカー。お金を使いたいロシア人のマフィア。夏休み中のベトナム人学生など。いろんな人たちと話ができた。みんなが、予測外のハプニングに見舞われていたけれど、なんとか旅を完成させようとしていた。旅にはそれぞれの目的があり、自分の目的は、将来に仕事をしながら住める場所を見つけることと、すばらしい食に出会うことだった。
食については、たった一食が、すべてを満たしてくれた。それが、メコンデルタの市場のあるカントーの町の朝の屋台で食べた豚汁粥。
麺やお粥やフランスパンのサンドウィッチなど、同じような軽食の屋台が早朝から並んでいるが、その一軒だけはどうも気になって、通り過ぎて5分ほど歩いてから、また戻ってきて、店の前に立った。店主らしきおばあちゃんが小さなプラスチックの椅子を指差した。周りの客も「座れ座れ」と勧めた。その間にも持ち帰りするお客がバイクでどんどんやってきて、大鍋のスープは減っていった。値段が分からないので、500円くらい払ってお釣りをもらうことにしたら、半分以上戻ってきた。それでも一番具の多い豚汁粥となって、朝食にしてはちょっと多かった。
豚汁粥のおばあちゃん
豚汁粥
豚汁粥
豚汁粥としたが、正確な名前は知らない。スープのお粥に、豚の内臓、バラ肉、豚足、生のモヤシや香味野菜、サクサクした食感のクルトンのような揚げ物が入っている。胡椒などのスパイスが振り掛けられ、さらにテーブルのライムやニョクマム(魚醤)を客が自由に足す。
簡単なようだが、これがかなり計算されていることに気が付いた。店主のおばあちゃんは、スープとお粥の入った鍋から離れず、客の顔を見ながらトッピングを決める。息子や娘らしき店員にはそれを任せない。なにやら鍋の火の調整と、トッピングの順番が大切らしい。特に豚肉については、例えば豚足はスープの鍋に入っていたが、豚の内臓やばら肉はあらかじめ茹でてあった。ぞれぞれに最高の風味と食感を出すために、火の通り具合を別々に調整しているらしい。スープの味には濁りがなく、ゆっくりと口全体に浸透する。体が勝手に踊り出しそうになる。鶏か、魚介類か、野菜も使っているのか、豚骨だけの出汁ではなかったと思う。米は、やわらかすぎるでも硬すぎるでもない。スープをネットリさせないところからすると、別の鍋で煮ておいて、スープと合わせるタイミングを調整していたかもしれない。
シャキシャキのモヤシや香味野菜、クルトンのようなサクサクの揚げ物も絶妙。上海雑技団で高く積んだ椅子の上に逆立ちする人くらいのバランスの良さだった。テーブルに置いてあるレモンやニョクマム(魚醤)を足すと、また違った味になって、見える景色が変わってくる。ものすごく完成度の高い料理だ。そして、むちゃくちゃ美味しい。ずば抜けて美味しい。ベトナム滞在中は、なるべく繁盛店を選んで朝食に同じような麺やお粥やスープを食べたけれど、おばあちゃんの豚汁粥とは比べものにはならない。天才の仕事だった。食後しばらくはボーっとして、席を立つことができなかった。旅は完成した。
2007年度「上海のお昼ご飯!」が選ぶ最高の料理になるのは間違いない。しかし、あのおばあちゃんの屋台がどこにあったのか、そのときは地図も持っていなかったので、また行けるかどうか・・・いや、地図があってもベトナムの田舎なのだ。どうせまっすぐには行けない。

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