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点菜の心

ブログ「吃尽天下@広州」の酒徒(しゅと)さんがまだ上海に駐在していた5ヶ月ほど前に、「急な転勤で広州に行くことになって、その前にもう一度、上海のお昼ご飯を食べたい」と希望された。あまり準備できなくて有り合せになったけれど、とにかく食べてもらった。そのときに、「いつか広州に食べに行くからよろしく」とお願いしていた。自分よりもいくつか年下の酒徒さんは、「ご案内できるように食の開拓しておきます」と、まじめな顔をして言われた。
思えばこのときから「点菜」は始まっていた。
「点菜」とは、レストランの菜単(メニュー)から、料理を選び注文することである。品数の多いメニューから料理を選んで食事を組み立てるのは、いつになっても難しい。点菜の面倒のないコース料理は、おもてなしの心が表現できないので、われわれは選ばない。酒徒さんは、遠方の友が広州を尋ねてくる日を考えながら、日々広州のレストランを渡り歩いていたと思うのだ。
さて、自分が広州にゆくチャンスもまた急にやってきた。別の用で香港と広州に行かねばならず、空いた時間が少ないのでその旨を相談したら、ご夫婦で協力してあれこれ手配してくださって、仕事のある平日にもかかわらず、広州に滞在中の2日間のお昼と夜の食事はすべて付き合っていただいた。しかしゆっくりできるのは3月24日の夜だけ。その一食が勝負となる。「リクエストはありますか?」と聞かれたが、「すべてお任せします」と、もっとも難しいリクエストを出した。
玉堂春暖
その日、選ばれたレストランは、意外にも高級ホテル白天鵝賓館の広東料理「玉堂春暖」。「いろいろ考えたんですけど、きちんとした店で地味な料理にします」と酒徒さんは言う。庭池に錦鯉の泳ぐ豪華なホテルのロビーに着いた瞬間、プレシャーをかけ過ぎたかと思ったが、もう後戻りはできない。こうなったら身を任せる。
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玉堂春暖 3月24日 菜単(メニュー)
燉湯 (じっくり煮込んだ広東スープ)
叉焼 (焼き豚)
焼乳鴿 (鳩のロースト)
上湯西洋菜 (クレソンの炒めスープ仕立て)
牛筋蘿蔔堡 (大根と牛筋土鍋煮込み)
揚州炒飯 (揚州チャーハン広東仕立て)
寿眉茶 (サウメイ茶)
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焼乳鴿
焼乳鴿(鳩のロースト)が絶品であった。その他の料理もすばらしい。チャーハンは、ちょっと塩味が足りないくらいに仕上げられ、他の料理とのバランスを取っていた。
いつも美味しいものを食べていても、3日前の晩御飯さえ思い出すのは難しいけれど、この日の食事はずっと忘れないだろう。料理の美味しさもさることながら、控えめで気持ちの良いご夫婦との会話と、そしてなによりもまっすぐな「点菜」に、ハッとさせられるものがあった。選ばれた料理は、私個人をとりまく環境をよくよく考慮してあり、誰にでもあてはまるものではない。細かい説明は省いていくつかポイントを挙げておくと、まず、広東料理にして海鮮がない。威圧感を与えるフカヒレやアワビもない。食材は安いが、料理人の腕と思想がダイレクトに現れる品である。味や栄養の組み合わせは食後感まで考慮されてある。
寿眉茶
自分が逆の立場で、こういう気配りのある点菜ができるだろうか?川沿いの風景といい、豪華なホテルの雰囲気といい、遠方からの客の旅情を盛り上げるこのレストランを選べただろうか?考えるのが面倒になって、海鮮やフカヒレを選んだりしないだろうか?先輩を立てて、控えめでおくゆかしさのある料理を選べるだろうか?「点菜」には人の心が表れる。この食事には、日本人らしい美しさがあったと思う。そういうのを、自分は忘れてはしないだろうか?
今回はごちそうして下さるというので、抵抗することなくご好意を頂戴した。そのほうがいいと思った。金額を知らないでおくために、テーブルに伝票が来る頃に席を立ってお手洗いに行った。
夢心地は眠るまで続いた。

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